天手力雄命(あまのたぢからおのみこと)を祭神とする手力神社(てぢからじんじゃ)は、昔から「湯舟の手力さん」と呼ばれ、手や力の神様、現在では進学・縁結び・交通安全の神様として知られている。神社の周辺は、丘陵の入り組んだ伊賀の特徴がよくあらわれている。
忍者として著名な藤林氏の先祖、藤林長門守(ふじばやし ながとのかみ)の氏神として、一族の信仰の対象であった。藤林一族を含む北伊賀の忍者は火薬の扱いに長けており、江戸時代以降も、1年のうち4ヶ月、1月のうち6日、鉄砲の訓練を受ける準士分である「藪廻り無足人」として、藩に召し抱えられるものが多い地域でもあった。また、藤林の四世、富治林正直による御宝前献灯一基が保存されている。
この地域では、忍者は狼煙(のろし)を活用するために、花火の技術を磨き、手力神社の奉納花火も藤林長門守が始めたものだとされ、手力神社では大正の末まで、氏子によって手作りされた花火による奉納花火が行われていた。現在でも伊賀市内で一番遅い10月17日に奉納花火が行われている。
また、同神社の鈴の緒は、祈願の際に願い事を書いた布を結ぶ慣習があり、現在まで数十万人に及ぶ祈りは、重さ2トンという形になり、「日本一重い鈴の緒」として有名である。鈴の緒の奥側には戸隠神社の分社であることを示す額縁が掲げられている。